大判例

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仙台高等裁判所 昭和29年(う)538号 判決

名誉毀損罪は公然事実を摘示して人の名誉を毀損することにより成立するものであるから、同罪の成立するには被害者の特定せられることが必要であるけれども、必ずしもその氏名異名の類を掲げて特定人であることを明示しなくとも、摘示せられた事実関係自体によつて一般推理上その何人に関するものであるかを認識し得られる場合は、被害者が特定せられたものというべく、名誉毀損罪の成立に何等欠けるところはない。そして、名誉毀損罪の犯意は右の事実を認識し、他人の名誉を毀損すべきことを認識すれば足りるものというべきである。この意味において、原判示事実特に所論被告人に名誉毀損の犯意のあつた点も原判決挙示の証拠により優にこれを証明するに足り、原判決援用の所論村上照行外五名の供述調書の供述が所論のような誘導尋問でなされたと認むべき証跡は何等なく、なお渡辺蔵吉が所論のような事情で被告人をうらんだとの事実は原判決の認定しないところであり、記録を精査しても原判決の右事実認定に過誤あることを疑うべき事由は存しない。即ち、原判決の認定事実にその挙示する証拠を参照すれば、被告人はその編集発行する岩代毎夕新聞に「こら綿鍋久良喜智貴様はそれでも社会事業家か」との見出の下に、社会事業家と称している議員綿鍋久良喜智が原判示の如く或るソバ屋通い女中をしている大林某という母子寮にいる美人未亡人の貞操を殆んど強姦に等しい行為で蹂躙した旨の記事を掲げて、郡山市社会福祉協議会副会長同市市会議員渡辺蔵吉の名誉を毀損したというのであつて、渡辺蔵吉の本名に代えてあて字を以てしているけれども、当該記事自体により渡辺蔵吉が郡山市社会福祉協議会副会長であり同市市会議員であることを知つている一部読者をして容易に同人に関する事項であると推知させるに十分であり、被告人においてこのことを認識していたことは疑を容れないから、名誉毀損罪の成立するに妨げない。論旨は「綿鍋久良喜智」は虚無人で、社会を風刺する気持で掲載したに過ぎず、渡辺蔵吉の名誉を毀損する意思なく、前記記載が強いて渡辺蔵吉の意味に読めるならばそれは被告人の過失に過ぎない旨主張するけれども、前記の記事の内容自体に徴し、ことさらあて字を用いたことからみても、被告人に渡辺蔵吉の名誉を毀損する意思のあつたことは到底これを否定し得ない。なお、その掲載目的が専ら公益のために出でたものであるとは認められないし、その事実が虚構のものであることは被告人の認めるところである。されば、原判決が原判示事実を認定して名誉毀損罪に問擬したのは正当であつて、原判決には事実の誤認や擬律錯誤の違法は存しない。論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

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